
経営管理VISAの改正について
行政書士 永井国際法務事務所
VISA申請や帰化申請にまつわる内容を中心に連載形式のコラムです
■経営管理VISAの改正について
外国人起業家のための主要な日本在留資格である「経営・管理」VISA(以下「経営管理VISA」)が、大きな転換点を迎えようとしています。
2025年8月26日、出入国在留管理庁は要件を大幅に厳格化する省令改正案を公表し、パブリックコメントの募集を開始しました。
今回の改正は、日本が今後どのような外国人起業家を求め、どのような経済的価値を期待するのかという国家戦略の転換を象徴するものです。
自由民主党の外国人材等特別委員会に関するお知らせでは、次のような趣旨を述べています。
「近年日本への移住を目的として「経営・管理」を悪用する外国人がいるという指摘や在留審査時に事業実態が無いことが判明したことにより、厳格な申請許可基準が求められていました。
既存の「経営・管理」許可基準が、諸外国の同様の制度よりも緩いため、悪用されているという課題を踏まえ、入管は許可基準のうちいくつかの見直し案が示されました。」
経営・管理ビザ 許可基準厳格化求める 外国人材等特別委員会:自民党HPへのリンク
1.2025年省令案改正のポイント
今回公表された省令案で最も重要な変更点は、資本金要件の大幅な引き上げと、新たな雇用義務の追加です。また、新規事業計画について中小企業診断士等の確認の義務付け等もあります。
これまで多くの外国人起業家が利用してきた方法が、要件が厳格化へと変わる可能性があります。以下に、変更案のポイントを記載します。
・資本金要件の引き上げ
現行の上陸許可基準省令では最低資本金または投資額500万円以上とされていますが、この基準が原則として3000万円以上に引き上げられる案が示されました。これが実現すれば、日本で起業するための金銭的なハードルが根本的に変わることを意味します。
海外からの送金が、金額の大きさから認められるのか否か等、実務上の論点も多いです。
・新たな雇用義務の導入
現行ルールは、「資本金500万円以上」または「常勤職員2名以上の雇用」のいずれかを満たすことでした。
しかし、新省令案では「資本金3000万円以上」かつ「常勤職員1名以上の雇用」が同時に求められる方向で調整が進められています。これまで大半の申請者が資本金要件のみでVISAを取得してきた実態を考えると 、これは極めて重大な変更点です。
・施行時期
これらの変更は、パブリックコメントを経て、2025年10月中旬ごろの施行が予定されています。
「経営・管理」の許可基準の改正等について:法務省HPへのリンク
2.省令改正の背景
この大幅な厳格化案は、最近になり顕在化した複数の要因が絡み合った結果です。省令改正の狙いは、顕在化した制度の悪用を防ぎ、より質の高い起業家を誘致することにあるといえます。
・経営管理VISAの悪用と形骸化への対策
現行の資本金500万円という基準は、長らく変更されていませんでした。
その間の円安の進行や日本の経済の低成長により、この金額は国際的に見て極めて低い水準となり、「お金で買えるビザ」と揶揄される状況が生まれていました。実際には事業活動を行わないペーパーカンパニーを設立して在留資格を得る事例が増加したことが、厳格化の最大の引き金と報じられています。
・悪いイメージの払拭
経営管理VISAが、無許可の民泊(いわゆるヤミ民泊)といった問題と関連付けて報道されるケースも増え、制度に対する社会的な風当たりが強まっていました。日本政府はこうした批判に応え、制度の信頼性を回復する必要に迫られたと考えられます。
・世界標準との同期
今回の改正省令案は、日本の起業家VISAの要件を、他の先進国の基準に近づける狙いもありそうです。諸外国では、より高額な投資や事業の実現可能性を厳しく問うのが一般的です。国際競争力を高めるため、真剣に日本経済へ貢献する意思と能力を持つ、質の高い起業家を呼び込むための措置と位置づけられています。
・専門家の指摘する背景
公的機関などに所属する専門家からは、もう一つの背景として、経営管理VISA取得者の家族が「家族滞在VISA」で来日した際、特に子供たちの公教育現場で日本語教育のサポートなどにリソースが割かれているという実態を指摘する声も聞かれます。VISA取得のハードルを上げることで、こうした間接的な社会的負担を抑制する意図も含まれている可能性もあるでしょう。
これらの背景を総合的に考慮すると、今回の省令変更は、日本の外国人起業家受け入れ方針が、広範な起業家を惹きつける「量」の追求から、十分に資本力のある事業を厳選する「質」の追求へと、政策の方針転換を目指す意図があることを明確に示していると言えそうです。
日本政府は、日本の産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成を図ることを企図しています。その一環でも、改正省令案の施行を目指しているのです。
3.改正省令案施行後の対策
経営管理VISAの取得要件が「資本金3000万円以上」かつ「常勤職員1名以上の雇用」に厳格化される案が実現すれば、外国人起業家を取り巻く環境は一変します。
そこで、この改正省令改正後に適応する方法と、代替的な在留資格について検討してみましょう。
■選択肢1:新・経営管理ビザ(資本力のある起業家向け)
新しい要件案を満たすことができる、十分な資金力を持つ起業家にとっても、戦略的な準備は不可欠です。
・投資の構築と事業計画
3000万円という投資額は、相応の規模と社会へのインパクトを持つ事業を想定させます。事業計画の審査はこれまで以上に厳しくなり、投資額に見合った売上規模、雇用創出効果、そして持続可能性を具体的に示す必要があります。
・資金源の証明
投資額が大きくなるほど、その資金を合法的に形成したことの証明はより重要かつ複雑になります。過去数年分の収入証明、資産売却の契約書、贈与契約書など、資金の出所と流れを一点の曇りもなく説明できる、完璧な書類準備が求められます。
・雇用義務への対応
新たに課される「常勤職員1名以上の雇用」という案は、単なる追加コスト以上の意味を持ちます。採用活動はもちろん、労働契約の締結、社会保険・労働保険への加入手続き、給与計算といった労務管理の知識が必須となります。採用する職員は日本人または特定の在留資格(永住者など)を持つ者に限られるため 、人材確保の戦略も必要です。
■選択肢2:高度専門職ビザ(エリート人材向けの最短ルート)
一定以上の学歴、職歴、年収を持つ起業家にとっては、「高度専門職」VISAが極めて強力な選択肢となります。ちなみに、日本政府は、日本の産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成を図ることを企図して、高度専門職の方の日本居住を推し進めています。
高度専門職1号(ハ)とは
この在留資格は、事業の経営・管理活動を行う者を対象としています。
しかし、申請の前提として、経営管理VISAの基本的な要件(事業所確保、事業規模など)を満たす必要があります。その上で、法務省が定めるポイント計算表に基づき、合計が70点以上に達することが求められます。
・ポイント計算の仕組み
ポイントは、学歴、職歴、年収、年齢、研究実績、特定の資格、日本語能力など、多様な項目で加算されます。特に年収は重要な要素であり、例えば年収1000万円以上であればそれだけで多くのポイントを獲得できます。
・圧倒的な優遇措置
70点以上を獲得して高度専門職VISAを取得すると、多大なメリットがあります。
- 在留期間: 初回から一律で最長の「5年」が付与されます。
- 永住許可要件の年数緩和: 通常、永住許可申請には原則10年以上の在留が必要ですが、高度専門職(70点以上)の場合は在留3年、80点以上の場合はわずか1年で永住許可の申請資格が得られます。これは最大の魅力と言えるでしょう。
- 配偶者の就労: 配偶者は、学歴や職歴の要件を満たさなくても、フルタイムで働くことが可能です。
- 入国・在留手続きの優先的処理
■選択肢3:外国人起業活動促進事業(スタートアップVISA。お金は無いがアイデアはある人向け)
外国人起業活動促進事業とは、経済産業省が、我が国の産業の国際競争力を強化するとともに、我が国に国際的な経済活動の拠点を形成することを目的として設けた制度です。
経済産業大臣から「外国人起業促進実施団体」の認定を受けた地方公共団体・民間事業者が、起業を目指す外国人の作成する起業準備活動計画を妥当なものと認定することを条件として、当該外国人起業家の申請により、地方出入国在留管理局から在留資格「特定活動」(スタートアップVISA)を付与されるスキームとなっています。これにより、最長2年間、起業準備活動を行うことができます。
外国人起業活動促進事業(スタートアップビザ):経済産業省HPへのリンク
お金は無いが、アイデアあふれた起業を目指す外国人にとり、有力な選択肢です。
4.資金調達の方法
経営管理VISAの資本金要件を3000万円に引き上げる省令案が実現すれば、資金調達の重要性は高まります。自己資金や親族や知人からの融資などによる資金調達では資本金3000万円に足りない事態も想定されてきます。
また、海外からの多額の送金は、マネーロンダリング(資金洗浄)の疑いを晴らすための手続きについても、金融機関との相談が必要で、対応できる金融機関も限られます。
資本金3,000万円を調達するには、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金などの金融機関からの融資や、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルからの出資(エクイティファイナンス)が主な方法でしょう。融資の場合は、事業計画の妥当性、自己資金額、経営者の経験等が審査のポイントとなります。
5.まとめ
改正省令案のポイントは次の通りです。
✓ 経営管理VISAの厳格化案が公表され、資本金3000万円と常勤職員1名の雇用等が要件となる見込み
✓ 新要件の施行は2025年10月中旬が目標
✓ 厳格化の背景には制度の悪用防止と、より質の高い起業家を誘致する「量から質へ」の政策転換がある
✓ 事業計画の「安定性・継続性」を客観的データで証明することが、これまで以上に重要となる
✓ 資金力に応じた新・経営管理VISA、エリート向けの高度専門職VISA、アイデアあふれる人向けのスタートアップVISAなど、代替方法の検討が必須
如何だったでしょうか。経営・管理VISAの許可要件が複雑化するため、行政書士など専門家への相談を通じて、最適な戦略を立てることが成功の鍵となりそうです。
